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一般の皆様向け情報

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HMG-CoA還元酵素阻害薬における筋障害の機序

rhab11

文献
  感染・炎症・免疫 Vol.37 No.2 2007  

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表3.原因薬剤の発症機序と好発時期について

原因薬剤による発症機序

骨格筋は体重の約45%を占め,代謝と血液循環が速いことから,循環血中にある薬剤に曝露されやすく,多くの薬剤は13~98%の率で骨格筋と結合します。薬剤の筋毒性は,血漿中の薬物濃度に依存し,筋組織に直接毒作用を発揮するとされています。薬剤の過量投与が原因で発症する横紋筋融解症は,低血圧,低体温症,呼吸抑制による低酸素症,代謝性アシドーシスなどを伴います。

εアミノカプロン酸,クロフィブラート,HMG-CoA還元酵素阻害薬などは直接的な筋毒として,サクシニルコリンは筋細胞の代謝を変えることにより傷害的に作用します。麻酔薬は,一次的筋障害作用を持つため,注意して投与する必要があります。特に種々のタイプの筋ジストロフィー患者では,横紋筋融解症や致死的な代謝異常になりやすいのです。ハロセンのような吸入麻酔薬やサクシニルコリンのような筋弛緩薬は,筋ジストロフィー患者で著しくリスクが増大します。

酵素及び栄養の供給不足で筋肉虚血を生じるものとして,中枢神経系抑制薬,血管収縮を生じるものとしてバソプレシンなどがあります。過剰なエネルギー消費によりジストニアを生じるブチロフェノン,痙攣を生じるテオフィリン,異常高熱を生じるコカインなどもリスクが増えます。その他,横紋筋融解症を発現しやすい薬剤と低カリウム血症をきたしやすい薬剤(ループ利尿薬,サイアザイド系利尿薬,非サイアザイド系利尿薬,トリアゾール系抗真菌薬など)との併用時は患者へ注意喚起する必要があると考えられます。

1.脂質異常症治療薬

参考3(←click here):副作用発現率と併用療法時のルール

HMG-CoA還元酵素阻害薬

〔好発時期〕

1年以内がほとんど,4ヶ月以内が50%以上と報告されています。
 

〔発症機序〕

発症機序の詳細は明らかではありません。HMG-CoA 還元酵素阻害薬の作用として次に示す①~③の説がありますが,定説には至っていません(図:HMG-CoA還元酵素阻害薬における筋障害の機序)

  1. 形質膜内のコレステロール成分の減少による直接作用。
  2. HMG-CoA からメバロン酸を経てゲラニルゲラニオール誘導体の減少を生じ,タンパク質のprenylation(脂肪酸を介したタンパク修飾の一種)の障害をきたす。このタンパク修飾は細胞内シグナル伝達・細胞周期・ミエリン化・細胞骨格蛋白動態など基本的な細胞機能に関係している。
  3. ゲラニルゲラニオール誘導体の減少から生じるコエンザイムQ10 の減少によりエネルギー代謝の障害が生じる。→ミトコンドリア機能異常

本薬剤は単独投与中に軽度のCK上昇,一過性の筋痛が出現することはあっても,横紋筋融解が発症することは比較的まれであるとされています。 米国における調査ではスタチン服用者において筋肉痛は,2~7%で生じ,CK 上昇や筋力低下は0.1%~1.0%で認められる。重篤な筋障害は0.08%程度で生じ,100万人のスタチン服用者がいた場合には,0.15 名の横紋筋融解による死亡が出ていることになるといわれています。

相互作用において,他の高脂血症治療薬,シクロスポリンなどの免疫抑制薬との併用は,筋障害を重症化させることがあります。 詳細な機序は不明ですが,シクロスポリンはHMG-CoA還元酵素阻害薬の排泄阻害作用を有し,血中と骨格筋内濃度を上昇させることにより,筋障害が助長されるとする報告があります。

フィブラート系薬

〔好発時期〕

1日~2年の間で発症が報告されています。2週間以内が50%以上とされています。

〔発症機序〕

フィブラート系薬は,アセチルCoAからメバロン酸に至るコレステロール生合成過程を抑制し,アセチルCoAカルボキシラーゼ活性抑制によって中性脂肪(TG)の生合成を抑え,TGとコレステロールを低下させます。その過程で,脂肪酸の合成とグルコース酸化の両方を障害するため,筋のエネルギー供給を攪乱し,ミトコンドリアでのエネルギー伝達が阻害されます。クロフィブラートによる筋症状は,神経筋接合部と筋線維自身への作用があわさって起こると考えられています。ヒト肋間筋を用いた実験で,クロフィブラートが筋収縮時間を延長させ筋線維膜におけるCl-の膜伝導性を低下させることがわかっており,それによる筋収縮異常が発症要因の一つと考えられています。

 2.抗精神病薬・抗パーキンソン病薬

 悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome)は,高熱,頻脈,発汗などとともに筋拘縮,振戦が出現,進行すると広範な横紋筋融解,精神症状,意識障害から死亡例もあります。 初期症状に血清CK値上昇がみられます。骨格筋リアノジン受容体蛋白に作用してカルシウ ム放出を抑制するダントロレンナトリウムが悪性症候群においても有効です。

 ブチロフェノン系やフェノチアジン系薬など強いドパミンD2受容体遮断作用のある薬剤によって引き起こされます。一方の抗パーキンソン病薬は,中枢神経系に対する作用について抗精神病薬と逆の作用を持っていることから,急激な減量・中止で悪性症候群を生じやすいことに注意が必要です。

 悪性症候群の発症機序は,視床下部,黒質線条体のドパミンD2受容体の急激で強力な遮断が原因とされますが,十分解明されていません。悪性症候群の多彩な症状はドパミン神経系単独では説明困難です。そこで提唱されたドパミン/セロトニン神経系不均衡仮説は,抗精神病薬によるドパミン受容体遮断によりセロトニン神経系の機能亢進が二次的に生じて,高熱や錐体外路症状などの症状が現れるというものです。他にノルエピネフリンやコリン系といった神経伝達系の関与も推測されています。

3.ニューキノロン系抗菌薬

〔好発時期〕

服用後数日以内に,投与量に関係なく筋障害が出現するのが特徴的です(1~6日と短期間の服用で急激に発症することが報告されています)。

〔発症機序〕

感冒様症状がある場合などウイルス感染に伴う横紋筋融解も知られています。酸性の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(特にプロピオン酸系など)との併用により,横紋筋融解症とともに痙攣と急性腎不全を合併したとする報告や悪性症候群の報告があります。直接的な筋毒性が示唆されています。

4.全身麻酔薬

全身麻酔数万回に1回程度の頻度で出現する悪性高熱症(malignant hyperthermia)は,主として揮発性吸入麻酔薬と脱分極性筋弛緩薬(例:スキサメトニウム)の併用によって誘発されます。家族性発症が多く,骨格筋の筋細胞内カルシウム濃度の上昇(カルシウムイオン放出異常)を認め,高熱とともに横紋筋融解,腎不全,多臓器障害に至る重篤な副作用です。悪性高熱は,もともと何らかの筋疾患を持っている者や遺伝性筋疾患を持っている者,高CK血症などのある者は注意が必要です。

 

文献
(1) 医薬ジャーナル Vol.35 No.3 1999 ,Vol.38 No.3-6 2006 医薬ジャーナル社
(2) 重大な副作用回避のための服薬指導情報集1 じほう
(3) 感染・炎症・免疫 Vo.37 No.2 2007 医薬の門社
(4) 医薬品医療機器情報提供ホームページ重篤副作用疾患別対応マニュアル

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参考3 副作用発現率と併用療法時のルール

 1.副作用発現率について

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上記表は,2006年4月に米国脂質協会「スタチン安全性特別委員会」によって報告されたNLAレポートのデータです。

スタチン:HMG-CoA還元酵素阻害薬

文献
   Edited by James M. McKenney PharmD;American Journal of Cardiology,Vol.97,Supplement,2006より改変

 2.併用療法時のルール

 HMG-CoA還元酵素阻害薬の代謝・排泄系抑制薬との併用

 National Cholesterol Education ProgramⅢ guidelines(Adult Treatment PanelⅢ, 20014)は,高low density lipoprotein-choresterol(LDL-C)に加えて,高トリグリセリド,低high density lipoprotein-choresterol(HDL-C)のコントロール法を示しています。本ガイドラインとアメリカ糖尿病学会のガイドラインの心・血管イベント予防の目標値に到達することは,単剤療法ではしばしば困難であり,特に自己免疫的機序以外の原因による2型糖尿病患者では,難しいことが多くあります。これらの患者にはHMG-CoA還元酵素阻害薬とフィブラート系薬剤の併用療法のような,より積極的治療が求められ,LDL,HDL,トリグリセリドの代謝性3主徴に対しては,良い効果が得られています。そこで併用療法を行う時に,安全性を確保するためのルールが作られ,単剤療法に失敗した場合,次の条件が満たされる時にのみ,併用療法を実施することとなっています。

  1. 腎機能が正常である。
  2. HMG-CoA還元酵素阻害薬やフィブラート系薬剤の血中濃度を上げる薬剤との併用がない。
  3. HMG-CoA還元酵素阻害薬は通常量から始め,増量は臨床的,生物学的検査結果をもとに注意して行う。
  4. 筋症状があれば直ちに報告するよう患者に説明する。
  5. 併用療法を開始する前にCKとトランスアミナーゼを測定し,併用1カ月後にCK,トランスアミナーゼ,クレアチニンを,その後は3~6カ月ごとに注意深くモニターする。
  6. CKが正常上限値の10倍を超え,筋症状を伴った場合は併用療法を中止する。
  7. CKが正常上限値の5倍以上になれば,隔週ごとに測定を行う。
  8. 高齢者,特に女性は注意してモニターする。

 肝または腎機能障害患者での併用時の注意

 フィブラート系薬剤は単剤治療でも肝機能を障害するので,肝機能障害患者はHMG-CoA還元酵素阻害薬とフィブラート併用療法を受けるべきではありません。腎排泄型のフィブラート系薬剤は,軽度な腎機能障害患者でも筋原性疾患のリスクが増す可能性があります。

1998年米国でⅡb型高脂血症の患者において,冠動脈疾患や高脂血症の治療に,HMG-CoA還元酵素阻害薬とフィブラート併用療法の有益性を確認した報告があります。しかし,次のようなグループには併用療法を行うべきでないと警告しています。

  1. 70歳以上の高齢者。
  2. 複数の薬剤を服用している患者。
  3. 腎障害患者または,重病人。
  4. 治療のリスクを十分理解していない患者など。

 

文献
(1) Adult Treatment Panel III :Executive summary of the third report of the National Cholesterol Education Program(NCEP)expert panel on detection, evaluation, and treatment of high blood cholesterol in adults. JAMA 285:2486-2497, 2001.
(2) Farnier M:Combination therapy with an HMG-CoA reductase inhibitor and a fibric acid derivative. A critical review of potential benefits and drawbacks. Am J Cardiovasc Drugs 3:169-178, 2003.
(3) 医薬ジャーナル Vol.42 No.12 2006

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図2.筋障害が急性腎不全を引き起こす機序

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筋肉に障害が発生すると,筋細胞からミオグロビンが放出され,乳酸や尿酸などの血中濃度も上昇します。一方,水は急速に傷害された筋組織へ移動し,脱水が起きます。

文献
医薬ジャーナル Vol.35,No.3,1999

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