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横紋筋融解症

横紋筋融解症(rhabdomyolysis)

2009年6月作成

1.横紋筋融解症とは?

外傷性または非外傷性の原因(表1)(←click here)によって,骨格筋細胞の融解や壊死が起こり,ミオグロビン(myoglobin;Mb)などの筋細胞成分が血液中へ大量に流出し,急性腎不全を起こして致命的となることもある疾患です。例えば,発症後,急速に進展し,急性腎不全から高カリウム血症や代謝性アシドーシスにより死に至る場合があります。実際の横紋筋融解症発症例は複数の原因によることが多いとされています。外傷性の原因としては,過度の運動,機械的な圧迫(圧挫症候群:Crush Syndrome),激しい全身性痙攣などがあります。例えば,2005年4月に起きたJR福知山線脱線事故は,死者100名以上(当該電車運転士含む),負傷者500名以上を出す大惨事となった列車事故です。事故の犠牲者の多くは1両目か2両目でほとんどが多発外傷や窒息で亡くなっており,Crush Syndromeと横紋筋融解症が確認されました。Crush Syndromeは阪神・淡路大震災や中国・四川省大震災でも報告されています。一方,非外傷性の原因をみると,先天性代謝性筋疾患,感染症,低カリウムや低リン血症,薬剤,熱射病,閉塞性動脈疾患(例えば,閉塞性動脈硬化症)などによって発症します。

rhab05患者の訴える症状

横紋筋融解症は四肢(下腿部が多い)の脱力感やしびれ,筋肉痛といった自覚症状があります。

図1(←click here):患者側の症状の訴え方

患者に対して,気をつけたい症状をつたえる他に,“(原則として服薬を中止)し,すぐに医師または薬剤師に連絡する”ことを指導しておく必要があります。この他,他の筋肉障害とも症状の比較をしておきましょう(←click here)。

rhab05病態

 横紋筋融解症は,筋肉痛と筋力低下が必発し,筋の硬結,腫脹を伴うこともあり,多くは下腿を中心に発現します。急速に細胞内に細胞外液が移動すると急激な筋の腫脹を併発し, 腫脹が高度になると同一筋膜内の血管を圧迫してしまい虚血性筋障害が悪循環となって進展して行きます。 これは,筋細胞内の ナトリウム 濃度が上昇し,急激に細胞外液が細胞内へ移行したことが原因です。

 傷害された筋細胞からは,細胞内成分のミオグロビン(筋肉ヘモグロビン;muscle hemoglobin)や酵素(CPK;クレアチニンホスホキナーゼ or CK;クレアチニンキナーゼ ),細胞の残骸などが逸脱して血中に放出されます。乳酸や尿酸なども血中濃度が上昇します。高カルシウム血症,高尿酸血症,高カリウム血症,高リン血症もみられます。 血清CKレベルは,障害後24時間以内にピークを示し,半減期は48時間とされています。連続的な上昇が見られる場合は,筋障害あるいは壊死が再発・継続していると考えられます。基準値の10倍以上の上昇が目安とされています。

参考1(←click here):HMG-CoA還元酵素阻害薬服用者の筋症状の診断基準

 炭酸脱水素酵素 Ⅲ も,骨格筋障害に特異的な生化学的マーカーであり,本酵素は心筋には存在しないため,骨格筋性と心筋性を区別するのに有用です。一方, 筋細胞内成分の大量かつ急速な血中への漏出によって出現する高Mb血並びにMb尿の確認も, 本症を診断する上で重要です。筋細胞から漏出したMbは一般の低分子蛋白と同様に糸球体を通過し, 尿細管で再吸収されますが,処理しきれないぐらいの大量のMbは排泄されたり,尿細管障害が起こった後では,再吸収されずに尿中にもれてきます。尿中濃度が1g/Lより多いと赤褐色になります。他方,非外傷性横紋筋融解症患者では,肝機能障害が一般的であり,25%の患者に可逆的に見られるという報告があります。

続発症

  • 高K,高Ca血症による心停止または不整脈
  • 二次的ミオグロビン尿を伴う急性腎不全
  • 筋浮腫と神経・血管の持続性圧迫神経,血管の圧迫が持続すると,筋区画症候群(compartmental syndrome)をきたします。
  • 播種性血管内凝固症(DIC),心筋原性疾患,呼吸不全,低Ca血症,高K血症,低リン酸塩血症など
 Checkしておきたい
  臨床検査値
 ・血中Mb濃度
 ・尿中Mb濃度
 ・CPK(CK)
 ・AST(GOT)
 ・ALT(GPT)
 ・LDH(水酸化脱水素酵素)
 ・ALD(アルドラーゼ)
 ・プロトロンビン時間延長
 ・総ビリルビン
・・・etc
〔参考〕基準値について
三菱化学メディエンス(株)

 rhab05腎障害の発生機序

 横紋筋融解の結果, 急性腎不全,DIC,多臓器不全などから生命にかかわる重篤な状態に至るケースがあります。 高Mb血症により尿細管に負荷がかかり急性腎不全を伴うことが多々あります。腎障害の原因にはMbの他に,血管内脱水(腎血管虚血),酸性尿が要因にあげられます。脱水と併発する乳酸アシドーシスも腎不全発症進展の原因となり得ます。

図2(←click here):筋障害が急性腎不全を引き起こす機序

Mb

 Mbは,筋肉組織(骨格筋,心筋)に存在する分子量約17,000のヘム蛋白質(色素蛋白質)です。酸素との結合が極めて強く(ヘモグロビンより強い),蓄えられた酸素によってATPの合成や乳酸の分解に有効に働きます。分子量が比較的小さいので,筋崩壊だけでなく細胞膜の透過性が亢進すると血中に漏出して尿中に排泄されます。Mbの血中濃度が15mg/dL程度までであれば,Mbは血清中のMb結合蛋白に結合するので尿中に排泄されません。しかし,皮膚筋炎や横紋筋融解などの原因で,通常血清レベルが1,500~3,000ng/mLを超えると尿中に出現します。尿で検出された場合,少なくとも100~200gの筋が障害を受けていると考えられます。血中Mbが2,000ng/mLを超えると腎機能障害が出現するとされ,酸性尿で閉塞する傾向が強くなります。血中CKも10,000U/Lを超えると重症です。

酸性尿

 酸性尿(pH<5.6)下でMbはグロビンとヘマチンとなります。ヘマチンは,尿細管で尿酸と結晶をつくって 尿細管を閉塞します。また, Mbや筋崩壊の結果, 尿酸の産生が亢進して尿酸は結晶化し腎不全を助長します。

腎血管虚血(血管内脱水)

 主要因は血管内脱水です。外傷では血管内透過性亢進に伴う浮腫も要因となります。また,ヘム蛋白自体が血管内皮由来の血管拡張因子であるNOを低下させ,虚血にかかわっていると考えられています。その他,Mbは腎臓の血管収縮を起こして血流を低下させ腎虚血を起こします。腎血流の低下には腎内プロスタグランジンの産生低下, バソプレッシンの過剰分泌などの関与も考えられています。

2.原因薬剤について

rhab07原因薬剤と発症機序,好発時期

 薬剤が原因の横紋筋融解症は,脂質異常症(高脂血症)治療薬のフィブラート系あるいはHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬)による症例が代表的です。その他,ニューキノロン系抗菌薬,パーキンソン病治療薬,抗精神病薬でも知られています。

表2(←click here):これまで症例報告のあった薬剤

表3(←click here):原因薬剤の発症機序と好発時期について

rhab07リスクファクター。。。患者の危険因子

横紋筋融解症を誘発する因子には,

◇ 加齢(80歳以上) ◇ 腎機能障害 ◇ 発熱 ◇ 激しい運動
◇ 高血圧 ◇ 低カリウム血症 ◇ 感染症 ◇ 慢性的なアルコール摂取
◇ 糖尿病 ◇ 代謝性筋疾患 ◇ 痙攣 ◇ 薬物乱用
◇ BMⅠ低値 ◇ CYP450遺伝子多型 ◇ 脱水状態 ◇ 薬剤
◇ 肝疾患,胆道閉塞性疾患 ◇ 甲状腺機能低下症 ◇ 術後 ◇ 同じ姿勢を長時間続ける

などがあげられます。例えば,フィブラート系薬を服用中で腎機能のあまりよくない高齢者が,長時間水分補給もなく同じ姿勢をとり続けるといったことは避けたほうがよいでしょう。

rhab07治療

 横紋筋融解症の治療上, 早期診断が最も重要です。 まず薬剤が原因と考えられる場合には直ちに原因薬剤を中止することが原則です。 次に脱水の状態と重症度を判定しなければなりません。 軽症例では十分な飲水で十分な場合があります。治療が必要となるのは中等症以上とされています。 重症度の判定には筋逸脱酵素の上昇度が有用とする報告がありますが, 全身の状態, 脱水の具合, Mbや CK, ALD,ASTなどの生化学的検査成績を参考に総合的に判断されます。

脱水
 脱水に対しては生理食塩液を投与し, 循環動態を安定させます。

ヘマチン生成を防ぐ
 酸性尿下で出現するヘマチンは, 尿細管障害の原因となるため尿をアルカリ化させます。 酸性尿の防止には通常マンニトール重曹(NaHCO3) を使います。 利尿を目的にループ利尿薬を使用することは, 尿の酸性化を助長するため注意が必要です。 尿量は 300mL/時間を3日間程度, ミオグロビン尿が消失するまで維持することが必要です。

肺気腫などの予防
 肺水腫などの予防に中心静脈圧の測定が推奨されます。

血液透析
 薬剤起因性の横紋筋融解症では高率に腎機能障害を伴うため, 上記の保存的治療法が無効(高度なミオグロビン血症)の場合, 速やかな血液透析の導入が必要です。

筋細胞内カルシウム濃度上昇を防ぐ
 悪性高熱症では, 筋細胞内カルシウム濃度上昇を抑制することを目的としてダントロレン(ダントリウム)が使用されることがあります。

電解質異常
 横紋筋融解症の初期段階での高カリウム血症は致死的不整脈や心停止を誘発し,壊死筋肉内へのカルシウムの沈着により低カルシウム血症になると,その危険性がさらに強くなります。この場合,グルコン酸カルシウムの投与,利尿促進,イオン交換樹脂の使用により治療します。しかし,横紋筋融解症に伴う低カルシウム血症に対してのカルシウム補給は,筋障害を悪化させる恐れがあるので,テタニー症状やその所見が見られる場合もしくは,重症の高カリウム血症がある場合以外は推奨されていません。細胞内カルシウム濃度はNa+-K+ATPaseを介したNa+-Ca2+交換機構で維持されていますが,筋細胞膜が障害されると細胞内カルシウム濃度が増え,細胞内中性プロテアーゼを刺激し,細胞破壊を助長します。Ca2+投与はさらに細胞内カルシウム濃度を高め,プロテアーゼ活性を上げることになるので,筋細胞障害にはカルシウム拮抗薬が有益となります。

 

文献
(1) 最新医学大辞典 第3版 医歯薬出版(株)
(2) 水柿道直他;横紋筋融解症に関する副作用情報の評価と活用 医薬ジャーナル Vol.38,No.6,2002  
(3) 連載・HMG-CoA還元酵素阻害剤~有用性から有害事象まで~ 医薬ジャーナル Vol.38,No.1-12,2006  
(4) 重大な副作用回避のための服薬指導情報集<1> 日本病院薬剤師会 編集 じほう
(5) 患者の訴え・症状からわかる薬の副作用 じほう
(6) 薬局 Vol.59 No.2 2008 南山堂

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