尿路結石は,腎臓,尿管,膀胱,尿道などの尿路に存在する結石です。結石が存在する場所によって,腎結石,腎盂結石,尿管結石,膀胱結石,尿道結石などと呼ばれます。尿路結石症の治療は,結石を除去するだけでは不十分であり,その成分に対応した薬物療法や特に再発予防が必要です。
尿路結石症の原因には,副甲状腺疾患や痛風などを患い二次的に結石が形成される場合や,長期臥床の他に,食事の影響が指摘されており,日常生活での嗜好品や偏った食事(カルシウム,肉類,シュウ酸,ビタミンC,ビタミンDなどの過剰摂取)をしていないか今一度ご確認くださいませ。
サイドメモ
- 尿路結石の構成成分は,全結石の90%前後はシュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムなどのカルシウム結石です。
- 上部尿路結石(腎結石,尿管結石)
- 腎・尿管結石は,10人に一人が一生のうちに罹患するとされています。男性に多く(男女比=2.5:1),20-50歳代の方は注意されたい。
- 腎結石の最初の結石発作後4年以内は,最も注意が必要です。一般に,長期(10年)間での再発率は約40%とされていますが,日本での過去の報告によると,平均観察期間7年での平均再発率は,シュウ酸カルシウムとリン酸カルシウム結石で約41%,リン酸マグネシウムアンモニウム結石で約39%,尿酸結石で56%,シスチン結石で50%でした。
- 尿管結石の自然排石率は,約60%です。発作の起こる状況は地域と気候によって異なり,四季がある地域では夏期に結石発作が起こりやすいとされていますが,排石は冬期に多いという報告があります。結石発作は,気温が20℃以上の時や,急に低気圧となった場合にも気をつけた方がよいといわれています。
- 下部尿路結石(膀胱結石,尿道結石)
- 膀胱結石や尿道結石は,膀胱内で形成されたものと腎結石が降りてきたものとがあり,全尿路結石の5%程度です。性差でいえば男性が多い(男女比=6:1)のですが,男女ともに,60歳代以上の方は注意が必要です。
- 下部尿路結石は,上部尿路結石に比べてカルシウム結石が少なく尿酸結石や感染症による結石が多いのが特徴です。
代表的な尿路結石の成分と推定される病態・疾患
尿路結石の成分を分析することは,結石発生の原因究明と再発予防のために重要です。しかし,尿路結石の成分分析が不明な場合は,それまでの画像診断,血液・尿検査や問診などにより,結石成分を推定することによって精査が進められるようです。まったく推定不可能な場合は,シュウ酸カルシウム結石と同様に取り扱うことがあります。また,カルシウム含有結石と非カルシウム結石の成分が混合する場合は,多くは非カルシウム結石として取り扱われています。
代表的な尿路結石の成分と推定される病態と疾患を『表1』に示しました。
結石成分 | 推定される病態や疾患 | |
シュウ酸塩 | シュウ酸カルシウム | 高カルシウム尿(症),高シュウ酸尿(症),高尿酸尿,低クエン酸尿 |
リン酸塩 | リン酸カルシウ | 高カルシウム尿(症),低クエン酸尿,腎尿細管性アシドーシス,上皮小体(副甲状腺)機能亢進症 |
リン酸マグネシウムアンモニウム,カーボネートアパタイト | 尿路感染症 | |
プリン体 | 尿酸 | 高尿酸血症,高尿酸尿,痛風,尿酸排泄剤の使用 |
2,8-デヒドロキシアデニン | adenine phosphoribosyltransferase欠損症 | |
その他 | シスチン | シスチン尿症(シスチン,リジン,アルギニン,オルニチンの4種類のアミノ酸が大量に尿中に排泄されます。) |
尿路結石症に使用する薬
尿路結石症の検査は,尿検査,腎尿管膀胱部単純X線撮影(KUB),腹部超音波断層法,末梢血液検査,CRP(炎症反応),血液生化学(クレアチニン,尿酸,カルシウム,リン)検査などが行われます。家族歴や病歴,薬歴を主治医に伝えることも忘れてはなりません。
尿路結石症の症状には,疼痛の他に発熱や血尿,排尿障害も伴うことがあります。治療は一般に,結石破砕術や手術などの外科的方法と排石を待つ方法があります。5mm以下の小さい結石であれば,自然排石が期待できますが定期的な通院と水分の摂取が必要です。薬で治療を受ける場合も,水分の補給とバランスのよい食生活が必要です。下記『表2』及び『表3』に尿路結石症に使用されている治療薬を示しました。
- 痛みを訴える患者様には,抗コリン作用をもつ鎮痙薬やジクロフェナクナトリウムやインドメタシンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の坐薬,ペンタゾシンなどの注射薬,時には麻酔薬などが使われます。
- 排石促進薬としては,抗コリン薬や生薬や漢方薬などがあります。
- 感染症による結石の場合は,原因菌に感受性の高い抗菌薬が使用されます。
商品名 | 成分名 | 効能・効果 | |
排 石 薬 |
ウロカルン®錠225mg | ウラジロガシエキス |
腎や尿管にできた結石の発育抑制作用と溶解作用があります。 |
猪苓湯エキス細粒 | 猪苓湯 | 尿量が減少し,尿が出にくく,排尿痛あるいは残尿感のある症状に使われます。 | |
ラシックス® | フロセミド | 尿を出して尿管の結石を外に出します。 | |
イソバイド® | イソソルビド内用液剤 | 腎や尿管に結石があるとき、尿量を増やし、結石を尿と一緒に体の外に出します。 | |
鎮 痙 薬 |
セスデン® | 臭化チメピジウム | 尿路の通路を広げて、結石を排出しやすくし痛みをやわらげます。(抗コリン薬) |
チアトン® | 臭化チキジウム | ||
スパスメックス®錠 | 塩化トロスピウム | ||
ブスコパン® | 臭化ブチルスコポラミン | ||
コスパノン®錠 | フロプロピオン | ||
芍薬甘草湯エキス細粒 | 芍薬甘草湯 |
腎臓・膀胱結石の痙攣痛をやわらげます。 |
|
そ |
ロワチン® | α,β-ピネン,ボルネオール,アネトール,d-カンフェン,シネオール,フェンコン |
尿路結石の生成を防止したり,排石する作用があります。また,炎症・疼痛の緩解作用もあります。 |
商品例 | 成分名 | 使用目的例 | 注意点 | 備考 |
ウラリット®錠 |
クエン酸製剤 |
・尿酸結石 |
尿pHの過度の上昇(7.5以上)に注意が必要です。 | ・クエン酸製剤は,尿アルカリ化剤ですので,酸性尿を改善します。 |
ザイロリック®錠 |
アロプリノール |
・高尿酸血症や高尿酸尿を伴う尿酸結石患者 |
定期的に血清尿酸値を測定し,投与量が検討されます。 |
・アロプリノールは,尿酸の生合成に関係するキサンチンオキシダーゼという酵素を阻害して,血液中の尿酸値と尿中尿酸値を低下させます。 |
チオラ®錠 | チオプロニン | ・シスチン尿症におけるシスチン結石の発生予防および溶解 | 十分な飲水指導により尿中シスチン濃度を250mg/ L 以下に保つことや適正な尿アルカリ化に留意します。 |
・シスチンは,特に酸性尿では,尿中での溶解度が低いため,容易に結晶化します。 |
フルイトラン®錠 |
サイアザイド系利尿薬 | ・高カルシウム尿(症)を伴うカルシウム含有結石 | 低血圧,カリウムなどの電解質異常に留意します。 | ・利尿薬を少量使用することで体液量が減少し,腎尿細管でのカルシウム再吸収が高まり,尿中カルシウム排泄が20~30%減少するといわれています。 |
マグラックス®錠 |
マグネシウム製剤 | ・シュウ酸カルシウム結石の発生予防 | テトラサイクリン系・ニューキノロン系抗菌薬と同時に服用すると,これらの抗菌薬の吸収を阻害します |
・腸管から吸収されたマグネシウムは,腎臓から尿中に排泄され,シュウ酸カルシウムと結合し可溶性物質を形成することで,その排泄を促進すると考えられています。 |
アルミゲル®細粒 | 乾燥水酸化アルミニウムゲル細粒 | ・尿中リン排泄増加に伴う尿路結石の発生予防 |
腎機能低下者の長期投与に注意 |
・アルミニウムは消化管内でリン酸塩と結合し,リン酸塩の吸収を阻害します。→ アルミニウムは,消化管内でリン酸アルミニウムになり,尿中ではなく糞便中へ排泄されます。 |
尿路結石に注意する薬
尿路結石症の患者様が使用している内服薬の情報は重要であり,特に長期間に服用している薬が原因と疑われる場合は,薬の減量,中止,あるいは代替薬について検討する必要があります。下記『表4』に尿路結石形成に注意されたい薬を示しています。
一般名 |
適応症 | 作用例 | 結石の種類 | 備考 |
アセタゾラミド |
緑内障,浮腫,メニエル病,睡眠時無呼吸症候群,てんかんなど | 炭酸脱水酵素の抑制により利用効果を発揮します。 | リン酸カルシウム結石 | アセタゾラミドは,尿pHと尿中カルシウム,リン排泄を増加させて,リン酸カルシウム結石を形成することがあります。 |
グルココルチコイド |
リウマチ疾患,膠原病,副腎不全,ネフローゼなど | 抗炎症,抗免疫作用など | カルシウム含有結石 | グルココルチコイドや活性型ビタミンD3製剤は,尿中へのカルシウム排泄を増加させ,カルシウム含有結石を形成する可能性があります。これらに併用されるカルシウム製剤にも注意が必要です。 |
活性型ビタミンD3 |
骨粗鬆症など |
腸管でカルシウムの吸収を増加させたり,腎臓でカルシウムの再吸収を促進することにより、血液中のカルシウム値を上昇させます。 |
カルシウム含有結石 | |
カルシウム製剤 |
カルシウム欠乏症など | カルシウム補給 | カルシウム含有結石 | |
プロベネシド |
痛風,高尿酸血症 | 尿酸排泄促進 | 尿酸結石 | 尿酸排泄促進薬によって,高濃度で尿酸が尿中に排泄されると,プリン体の摂取制限や尿pHのコントロールが不十分だと尿酸結石が形成されやすくなります。 |
ケイ酸アルミン酸マグネシウム |
胃炎,胃潰瘍,十二指腸潰瘍 | 制酸,抗潰瘍作用 | ケイ酸結石 | 薬の直接の代謝産物が結石に関与する例として,制酸剤として用いられるケイ酸アルミン酸マグネシウムの長期投与ではケイ酸結石のできる可能性があります。 |
インジナビル |
HIV感染症 | HIVプロテアーゼ阻害作用 | インジナビル結石 | 薬の直接の代謝産物が結石に関与する例として,抗HIV薬のひとつでHIVプロテアーゼ阻害剤のインジナビルではインジナビル結石が形成されることがあります。 |
再発しないためには・・・
1.水分を補給しましょう
- 尿路結石は慢性的な脱水状態や水分摂取不足で発生しやすく,食事以外にも水分を補給して1日の尿量を2,000mL以上にできるようにすることが理想とされています。
- 水分の補給源としては特に指定されていないようですが,尿中に結石形成を促進させる物質(カルシウム,シュウ酸,尿酸など)を過剰排泄させるものは避けるべきです。例えば,清涼飲料水,甘味飲料水,コーヒー,紅茶,アルコールなどの取り過ぎに注意が必要です。
どうして?
-
清涼飲料水,甘味飲料水は,多くの砂糖を含み,砂糖の過剰摂取は尿中カルシウム排泄を増加させ結石形成の危険因子となります。
-
コーヒーは,尿中尿酸排泄を増加させるので,過剰摂取は結石形成の危険因子となります。
-
紅茶は,シュウ酸を含み結石形成の危険因子となります。
-
アルコールは利尿効果があるので,結石形成を抑えようとする部分もありますが,多量に飲み過ぎると尿中尿酸排泄の増加や脱水を招きやすく,慢性的に飲んでいると尿中にカルシウムやリンがたくさん排泄されてしまう可能性があります。ビールにはプリン体が多く含まれており,特に尿酸結石となると飲み過ぎは好ましいものではありません。
2.バランスのとれた食事を心がけましょう
気をつけたい栄養バランス
- 動物性蛋白質の過剰摂取にご注意
- 一定量のカルシウム摂取のすすめ
- シュウ酸の過剰摂取にご注意
- 塩分の過剰摂取にご注意
- 炭水化物の摂取(穀物摂取のすすめ,砂糖の過剰摂取の制限)
- 脂肪の過剰摂取にご注意
- クエン酸の適量摂取のすすめ
サイドメモ
栄養素 | 参考メモ |
蛋白質 |
・尿路結石発生の原因のひとつとして,動物性蛋白質の過剰摂取が指摘されています。 |
カルシウム | ・古くから,カルシウムの摂取を制限するとカルシウム結石形成の危険性が低下すると考えられてきましたが,カルシウムを制限し過ぎると,本来,腸管内でカルシウムと結合し糞便中に排泄されていたシュウ酸が,腸管から過剰に吸収されることになり,尿中でのシュウ酸排泄量が増えてしまい,シュウ酸カルシウム結石形成の危険性が増えると考えられています。 |
シュウ酸 |
・尿中のシュウ酸が増えると,カルシウム結石を発生させやすくするため,カルシウムよりも重要視されています。 |
塩分 |
・ナトリウムを取り過ぎると,尿中のカルシウム排泄量が増加し,尿酸ナトリウム塩ができ易くなります。 |
炭水化 |
・主に穀物のような炭水化物には,マグネシウムや食物繊維がたくさん含まれています。 |
脂肪 |
・脂肪の過剰摂取は,生活習慣病の原因になりますし,尿路結石患者様は脂肪摂取量が多いといわれています。 |
クエン酸 |
・クエン酸は,尿中のカルシウムがシュウ酸やリン酸と結合するのを阻害し,結石形成を阻止すると考えられています。クエン酸は,尿中でカルシウムと結合しても可溶性物質ですので,そのまま排泄されます。 |
3.不規則な生活や偏食は避けましょう
結石は夜作られるというのも過言ではありません・・・
■朝昼夕3度の食事のバランスをとる → 朝食欠食や夕食過食を直しましょう
どうして?
●日本での尿路結石症の患者様の食生活の多くが,1日必要栄養素の半分近くを夕食で摂取する夕食中心型といわれています。特に夕食時に動物性蛋白質を多く摂取してしまう,夕食中心の食生活は,就寝後の尿中への結石形成促進物質の過剰排泄につながります。
■夕食から就寝までの間隔をあけましょう → 4時間程度の間隔が理想的です
どうして?
●一般に,就寝中は体内に水分が補給されずに尿が濃縮されます。食後は,結石関連物質の尿中排泄が,約2~4時間後でピークになり,その後減っていきますので,食事の時間が就寝時間に近いと,結石ができやすくなります。
まずは,専門家(医師,薬剤師など)にご相談下さい。
文献 | ||
(1) | 尿路結石症診療ガイドライン2002年版 | 金原出版(株) |
(2) | 財団法人 日本医薬情報センター データベース | |
(3) | NHKきょうの健康 第208号 2005年7月号 | 日本放送出版協会 |
(4) | 治療 Vol.86 3月増刊号 2004年 | 南山堂 |
(5) | 治療 Vol.83 No.3 200 | 南山堂 |
(6) | 今日の治療指針 2006年版 | 医学書院 |
(7) | 最新 医学大辞典 第3版 | 医歯薬出版(株) |